困難さを抱えている人へのラブレターのような作品です——『コオリオニ』梶本レイカ メールインタビュー

#俺マン2016にて第1位に輝いた『コオリオニ』。これを記念して作者の梶本レイカ先生にメールインタビューを行いました。
小冊子に収録できなかった部分も含めたロングバージョンを公開いたします。

『コオリオニ』

『コオリオニ』(上・下巻/ふゅーじょんぷろだくと刊)

Q. 『コオリオニ』を描くきっかけはどんなものだったんでしょうか?
A. 作風をどうすればいいのか試行錯誤していた時期で、自分としてはもっと受け入れてもらいやすい作品を描かなくてはと悩んでいました。ですが、当時の作品担当さんが「描きたい物を描いてください」と仰って下さり、「こんなチャンスはもう最後だろうな」と思って崖から飛び降りるつもりで、描きたかった悪徳刑事という題材に挑戦しました。飛び降り過ぎました。

Q. 本作は実際にあった事件をモチーフにしたそうですが、なぜこの事件を選んだのでしょうか?
A. 「刑事といえば悪徳刑事」「ダークヒーローといえば悪徳刑事」という単純な思い込みからだと思います。地元で起こった事件だったため、子どものころ新聞やニュースで見知っていて、その影響が全てです。聞きかじった大人の大変さや警察組織の強固な縦社会のイメージが、あれよあれよと組織に利用されてしまったダークヒーローというか、スーパー悪徳刑事像として色濃く影響を受けたのだと思います。
当然ながらそれは単なる妄想なので、改めて勉強の為に実際の事件関連書籍を読んでは、執筆当初の自分の浅はかな発想にただただ罪悪感で一杯でした。

Q. 最初に思いついたシーン、エピソードはどのあたり?
A. 冒頭に出てくるすすきの氷祭のシーンです。とにかく寒々とした雪と氷のイメージでした。当時世間はアナ雪の「ありのままで」ブームで(もちろん映画自体は大好きです)、笑い話ですが、社会に紛れる事の難しさみたいのを改めて思い出していました。だから、せめてマンガの中くらいは2人の主人公が雪と氷の世界で「自分たちの城」を望むことを許して欲しいと、年中冬の北海道が舞台になってしまいました。

Q. 『コオリオニ』はBL作品ではありますが、今回のランキングではいわゆるBLファン以外からの支持が大半を占めていました。改めてBLというジャンルの懐の深さを感じましたが、梶本さんの思うBLの魅力とは?
A. BL自体とても層が深く、洗練された作品が溢れるジャンルだと思います。とても私が魅力を語れる身分ではないのですが、あえていうならBLというジャンル、というより、マンガ文化そのものの懐が深いからこそ、全てのジャンル……BLだけじゃなく百合や、ポルノ、ホラーなど各ジャンルあらゆる挑戦が許されて来たように感じました。特に今回の評価は、マンガなら表現を許される作品である恩恵を幸運にも受けられたように感じました。このような作品でも出版してくださり、本の形となって流通し、クチコミの力だけで、本来は出会えなかった方々の手元まで届けてくださり……。あらゆる考え、嗜好が許されていること、そこに歴史と時間をかけて根付いた読み手のみなさんの懐の深さにただただ感謝です。

Q. お気に入りのキャラクターやシーンはありますか?
A. ないです。「もっとこうしたら良かったああしたら良かった」という反省点はいくらでもあるのですが……あ、だから第4話で鬼戸が瀬取りでやらかした後に八敷と車で話す「反省会」シーンのような気持ちです。いつか気に入ったシーンが描けるようになりたいです。

Q. 『コオリオニ』本編は最初からかなりイメージや構成が自分のなかで固まっていたのでしょうか?
A. 「こうしよう」という脳内ふんわり構成はあったのですが、ネームがないと話にならないので、それをどう上下巻で形にしたらいいのか、いつも早朝散歩しながら考えていました。7話で完結予定だったので、ともかく連載分は辻褄が合うように終わらせたのですが、もう1話分挿入しないと物語にならないと解っていたので単行本で第6話と最終話の間に入る第7話を描き下ろしました。連載終了後に物語を補完させていただけて本当に良かったです。

Q. 現在新作『悪魔を憐れむ歌』を連載中ですが、こちらは青年誌ということで何か意識していることはあるでしょうか?
A. まったく本質は変わりません。むしろ、自分が描けると思わなかった題材に巡り会ったというか、知らない部屋の扉を開けたというか……。
コオリオニを機に今までになかった、許されながら描いているというか、支えてもらって描いている感覚があります。マンガだからこそ描けるバイオレンスと、より広がる世界を描くことに挑戦したいです。とてもありがたいです。

Q. 最後に読者の方へメッセージを。
A. コオリオニの著者・梶本です。本作はBLという男性同士の恋愛を描いたジャンルの作品です。本来忍ぶべき作品なので、このような機会は誠に恐縮です。暴力的な描写や、好みによっては不要なテーマ性など読む方を選ぶので、手放しでおすすめはできないのですが、描き手としては、個人的な困難さを抱えている方に向けて真剣に描いたラブレターのような作品です。いつかどこかでご縁がありましたら幸いです。ただただ感謝です。ありがとうございました。

梶本レイカ先生は現在ゴーゴーバンチで『悪魔を憐れむ歌』を連載中。四肢が逆関節で折りたたまれた遺体を残す連続殺人犯「箱折犯」を追うクライムスサスペンスだ。第1巻は5月発売予定。

悪魔を憐れむ歌 | コミックバンチweb

nelja

「マンガの話をしよう」ネルヤ